人々の島 マダガスカル


野田直人(元JICA専門家・開発コンサルタント)

マダガスカルの人たちの主食は日本以上にコメと言っても良いでしょう。一番人気の朝食はお粥。マダガスカルのコメは粘り気があまりないので、かなりさらっとしたお粥です。お粥に入っているのは若干の青菜など。塩などでの味付けはありません。付け合わせは別の小皿に干し肉を揚げたものやソースで煮込んだミートボール。ただし、こうしたものが付くのは街角のお粥屋さんで食べる場合で、多分農家の朝食はおかずなしでしょう。

昼食や夕食はもちろんご飯。現地のレストラン(と言うより飯屋)に入ると、一枚板に書かれたメニューがよくかけてあります。メニューの一番上に書かれているのは「メニュー」ではなく、いわば「おかず」という言葉。その下に「豚足の煮込み」「鶏肉のスープ」「テラビアの煮もの」などなど、おかず名が書かれています。まあメニューに書いてあってもなかったり、書いてないものがあったりもしますが。ご飯は、席につくだけで皿に山盛りが黙っていても出されます。

ご飯を食べる時に付き物なのがもう一つ、スープです。このスープの中にはナスや青菜などが入っています。だからと言って「ナスの味噌汁みたいなもの」を想像してはいけません。調味料は何も入っていません。野菜の煮汁です。どんなものか知りたければ出汁や味噌を入れる前の味噌汁を味見してください。これをそのまますすったり、ご飯にかけたりして食べます。一般家庭でおかずになる肉や魚がない時には、ご飯にスープだけをかけて食べているのでしょう。

私たちの宿は田舎町にあるホテルですが、夜明け前からニワトリの声で目が覚めます。日の出とともに周囲はざわつき始め、家々から煙が立ち上ります。街中といえども、薪や炭で調理する家庭が大部分なのです。ニワトリばかりでなく、アヒルも街中を我が物顔に歩いています。これらは無論食用。さらに、大きな豚が足を引っ張られて歩いて行った方向からは、しばらくすると断末魔の叫びが聞こえてきます。冷蔵設備が発達していませんから、町の肉屋さんの裏でブタを屠殺し、切り分けて店頭に並べているのです。

肉屋さんではブタのパーツを指定し、キロ単位で注文します。骨や脂が沢山入らないように気をつけていないといけません。肉屋さんでもう一つ売っているのが自家製ソーセージ。どこの肉屋さんでも自家製ソーセージを作っています。「マダガスカルの伝統食品か?」と聞いてみたら、「マダガスカル語でソシシと呼ぶから、多分外来の食習慣だろう」とのこと。

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(写真1)マダガスカルのご飯料理。内陸国のザンビアと比較して華やかな色合い(筆者撮影)。

町中の家庭は薪や炭は購入しなければなりません。農村部へ行くと、薪を自分たちで集めている家庭も多いのですが、人が住んでいる周辺では森林が破壊されてしまっていますから、薪集めは大仕事。薪不足が深刻な村だと、日の出とともに薪集めに出かけ、帰ってきて朝食の準備に取り掛かるのが11時とか。これが毎日ですから大変なことです。農業などで現金収入がある農家は薪を購入していますが、逆に言えば薪集めと販売は、貧困家庭の収入源にもなっています。

アフリカの農村だと、みんな等しく貧しいという印象がありますが、マダガスカルはそうではありません。土地は基本的に私有で、農地特に水田の広さが富を決めます。大金持ちは100ヘクタールもの水田を持ってトラクターで耕します。中金持ちは「クボタ」と通称される耕運機(現在はほとんどが中国製)で耕します。小金持ちは牛で耕します。普通の人は自分たちの手で耕します。そして貧しい人は小作人で、最貧困層は農業の季節労働者です。

田舎に行くと見かける風景が、水場の周りに百花繚乱のごとく広げられた洗濯物。各家に水場があるわけではありませんから、村の女性達は限られた水場に毎日洗濯にやってきます。濡れて重くなった衣類をそのまま持って帰るのは大変ですから、みんなその場で干します。でも、物干しが作ってあるわけではありませんから、水場の周囲の草や岩の上は色とりどりの洗濯物の花で埋め尽くされることになります。

マダガスカル、と聞くと多くの人が思い浮かべるのはバオバブの林、キツネザルやアイアイなどの原猿類が跋扈する原生林…といった風景でしょうか。確かに500年前のマダガスカルなら全土がそのような感じだったでしょうし、100年前でも国土のかなりの部分は自然が豊かだったことでしょう。しかし、現在そのような風景が見られるのは、ごく一部の保護林や国立公園などに限られています。あとは人の手が入り、姿を変えてしまっています。私が仕事をするのは首都アンタナナリボもある中央高地と呼ばれる地域の農村部ですが、現在では湿地や谷間はすべて水田になり、山地や丘陵地は禿山か、木があってもユーカリなどの外来種の植林地になってしまっています。

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(写真2)田舎の路面店。心の通った買い物も、アフリカの魅力の一つ(筆者撮影)。

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(写真3)街の夕暮れ時。人生に一度、アフリカに訪れなければ世界をまだ知らない、というに等しい(筆者撮影)。

私はマダガスカルに何度も渡航していますが、野生の猿を見たことは一度もありません。逆にマダガスカルから日本に研修に来た人たちを案内した時に、岐阜県の里山でニホンザルの群れを見かけました。マダガスカルの人たちは「あれは野生の猿か!」と驚いて写真を撮りまくっていました。マダガスカルはもはや猿の島ではなく、人々の島なのです。

 

■野田直人(のだなおと)
元JICA専門家。日本の国際協力における参加型開発の草分。
三重大学農学部卒業。メルボルン大学大学院農林学研究科修士課程終了。
有限会社「人の森」CEO。
http://hitonomori.com/dev_consultation.html
国際開発メーリングリスト「国際協力マガジン」を主宰。
主な著書に「開発フィールドワーカー」(2000・築地書館)がある。

*写真解説は編集部が加筆しております。

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